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3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa

3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa _c0008520_0272916.jpg3月9日金曜
ハミッド再会、カワカルチュラルセンターでのルドラ・ヴィーナ・コンサート

 朝8時に起きて、表に出ると主人のハミッド・カーンがやっと戻ってきていた。聞くと、スーフィーの聖地アジメールのダルガー(聖者廟)に数日間こもっていたという。
 「最近はよくダルガーに行くんだよ。人生を振り返る本当にすばらしい機会なんだ。スーフィーの聖地で、一人長い時間を過ごしていると色々な事が浮かんでは消える。神秘的な魂の生々しいヴァイブレーション(Direct vibration of mystic soul)が感じられるんだ。卓也も次回一緒に行こう」
 と話すハミッドは今年50歳とは思えないほど老け込んでいた。初めて彼にあったのは2002年の初夏だったから、ちょうど10年前。その時は髪こそ薄かったものの、まだまだ若々しかったのに、いつのまにかすっかりおじいちゃんっぽい。子供が18歳、15歳になったのだから仕方ないとは言え、インド人の老け方は尋常じゃない気がする。
 しかし、ここでもスーフィーに会ってしまった。ジャイプルはフランス人租界であって、先週までのパキスタンとは全く別の世界に来たつもりだったのに、この家の主人はすっかりスーフィーに入れ込んでいた。
 
 90年代末から、ラージャスターン民謡の楽団ムサフィールを率いて、欧米を中心に活躍してきた彼だが、リーマンショック以降ヨーロッパの音楽業界の不況を真っ先に受け、欧米公演が減ってしまい、一時的に立ちゆかなくなっているようだ。だから奥さんのほうがゲストハウスやカルチャラルセンターを立ち上げ、働いているのだ。
 音楽家やアーティストは甲斐性がない人が多いから、儲かっている時は良いけれど、一時的にでも儲からなくなるとどうにもならなくなる。たいていの音楽家から音楽を取ったら何も残らないもんね。しかし、これは彼だけの話じゃない。日本でも彼と似たような人達を沢山知っているよ。彼を招聘していたカンバセーションも倒産してしまったし。頑張れハミッド! 苦しんでいるのは貴方だけじゃないよ!

3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa _c0008520_0332984.jpg朝食後は妻が買ったインド服の撮影会だ。ここは自然に囲まれていて、日陰も多いので写真を撮りやすい。
今日はフランスからのミュージシャンが二人がここに滞在するので、僕達は二階の部屋に一日だけ場所を移る。そのために全員が忙しく動き回っている。僕は二階に座って、インターネットで日記をアップする。そして夜のコンサートの事を「ジャイプルに滞在中の方で古典音楽に興味のある人は是非お越し下さい。会場も雰囲気の良い場所です」とfacebookとtwitterに告知した。ジャイプルに滞在しているどんな日本人が来ないとは限らない。

 3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa _c0008520_0285772.jpgパルヴィーンが自分の部屋で歌の練習を始めた。電子タンプーラと電子タブラに合わせ、ハヤールを歌い始めた。その横で僕は日記を書いている。贅沢なBGMだ。パルヴィーン上手くなったなあ。

この宿で困るのは町までのアクセスだ。午後三時過ぎにゆりこが頼んだ服の仕上がりを確認するため、町に出る。ハミッドがスクーターを出すので三人乗りして行こうと言う。三人乗りはよく見かけるが、自分がすることになるとは思わなかった。もちろんヘルメットなしだ。ここで死にたくはないので安全運転してよと頼むが、ノープロブレムとのこと。しかしジャイプルまでの道は一本道だ。相手が突っ込んで来ない限り事故は起こらないだろう。三ケツして15分ほどで百合子の馴染みのテキスタイル屋へ。お店に入ると、電気も点けずにみんながだるそうにしていた。無理もない昨日のホーリーではしゃぎすぎたのだろう。店主とはfacebookで繋がったので、彼らがどんなホーリーをしたのか写真で見れてしまうのである。インターネットダダ漏れ社会である。百合子は頼んでいた衣装を二度ほど確認し、それからスカートも採寸して、さらにいくつか注文する。

3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa _c0008520_0291935.jpg宿までの帰り道はリキシャを使わずにバスを使ってみる。ホリデーインの前で大型のバスNo5を15分ほど待つ。来たバスに乗ってクンダという集落、終点まで乗る。そこはデリー〜ジャイプルロードとアンメールロードの交わる場所で、僕たちの止まっているカワゲストハウスはそこから200mほどアンメールロードを戻った所を道なき道に入る。一番分かり易い説明は"After Amber Village, Go straight! Before Kundaa, At the Shaadii Garden, Turn right to Kaprstaan. And go to the Hindu Temple on the hill." シャーディーガルデンとは野外結婚式場、カプルスターンとは墓場のことである。「結婚式場の所を右折して、墓場に沿って丘の上のヒンドゥー寺院まで」。初めて来た人は絶対に迷うから現地携帯は必携だ。

3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa _c0008520_0305040.jpg6時前にカワの会場に戻ると、会場前にはジャイプル滞在中の外国人が集まっていた。日本語がけっこう上手なケッタイなフランス人のオッサン、ダニエルは、障害を持つ芸術家のサポートを行うNGOを立ち上げ、25年にわたってジャイプルを訪れているという。彼らが連れてきたのはデンマーク人の音楽家親子。父親はデップリとしたスキンヘッドの巨漢でバスサックスを吹き、ひょろっとした息子はユダヤ教超正統派みたいなヒゲと髪型でハングドラムを叩くという。父のハンスは息子のベンヤミンのことを「彼は音楽を学んだわけではないのに、彼がハングを叩くと、自然とグループを牽引するんだ」とベタ褒めしていた。ハンスはデンマークを拠点にヨーロッパを回り、即興演奏ばかり40年以上も続けて来たという。今回はダニエルの団体に誘われて、障害者芸術家のイベントのためにインドに来ていた。コンサート後に機会があれば演奏するよと約束してくれた。

3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa _c0008520_03127100.jpgカワカルチャラルセンターは全てマリーノエルが仕切っている。そのためチケット切りや写真やビデオ撮影のスタッフもいない。なので僕がビデオとカメラ、そしてゆりこがチケット切りを買ってでた。
 午後8時すぎに始まったフランス人音楽学者の演奏はラーガの再現に重点を置いていて、即興演奏の興奮は感じられなかった。それは僕がサプタク音楽祭、そして日本でもU-zhaanやヨシダダイキチさんの演奏を日常的に聴いてしまっているからかもしれない。インド古典音楽は残酷だ。逆にここにヨシダさんやU-zhaanを呼んだらインド人観客がビックリしちゃうんじゃ?
 
 酷かったのはインド人プレス関係者。関係ない友人たちを「プレスだから、無料で入れろ」と連れてくるのからはじまり、アンプなしの生演奏だというのに、カメラマンはカメラのピント合わせ音「ピピピ」という音をひっきりなしに最前列で鳴らし続けている。その音消せよ! しかもレンズは初心者一眼レフに付いてくる暗いキットレンズを使ってる。悪いけどそんなレンズじゃ暗闇でちゃんとした写真は撮れねえよ! レンズ買う所から出直して来い! 女性記者のほうはアーラープの途中で立ち上がり、「演奏は一体いつ始まるんですか?」とマリーノエルに質問したという。どこの国でも常識なしのバカこそこういうところで働いているから不思議である。
 演奏家はピント合わせの「ピピピ」音に悩まされているのが演奏から伝わってくる。なんともラーガが広がらないままグルグルと同じ所を回っている感じだ。それでもアーラープを終わらせ、パカワジが入り本番となり一時間ちょっとで1ラーガを終わらせた。僕も写真撮影を頼まれているが、厚顔無恥な地元プレスと一緒にされたくはないので、パカワジが鳴りだしてから最低限だけ撮らせてもらう。

3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa _c0008520_0363470.jpg二人はさらにもう1ラーガを演奏し、二時間の公演を終わらせた。終了後は誰もが珍しい楽器ルドラ・ヴィーナのまわりに集まった。ジャイプル在住のシタール奏者クリシュナ・モハン・バットが来ていて、僕も紹介していただいたが、彼すらルドラ・ヴィーナを珍しがって写真を何枚も撮っていた。マリーノエルにジャイプルの古典の名家ダーガル家の女性を紹介された。市内にダーガル家のアーカイブがあり、そこを管理しているという。それは遊びに行きたい。

3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa _c0008520_032192.jpg会場の表に出ると「サラームさん!」と聴き馴染みのある声が聞こえた。ソトコト編集部のW君がいた。なんでここにいるの? なんと翼の王国の取材でジャイプルに来ていて、僕のfacebookを見てわざわざ車を飛ばしてやってきたという。「何度も迷いましたよ。それに近くの結婚式場を見つけてしまい、そこで入っていけと誘われて時間を食われました。もう演奏は終わっちゃったんですね!この場所ならさぞ素晴らしかったでしょう。残念だなあ」facebook恐ろしや! 本当に友人が来てくれた! 
 記念撮影をそれぞれに行い、観客が三々五々去っていくと、会場の中ではデンマークのベンヤンミンによるハング演奏に合わせてパルヴィーンが古典を歌い出した。そこにイリヤスがタブラで加わり、ハンスがバスサックスで加わり、即興演奏が始まる。ハングを生で聴くのはこれが二度目。日本の陰音階のような調律が僕にはちょっと苦手なのだが、それにパルヴィーンが悲しげなラーガを乗せて歌っている。なんかこっちの演奏のほうが本番より瑞々しくてイイんですけど。

3.9 Fri. Rudra Veena Concert @Kawa _c0008520_0302371.jpg即興演奏が30分ほどで終わった後、裏庭にテーブルを並べ、打ち上げの夕食会となった。マリーノエルの作ったベジインド料理とたっぷりのビールだ。食事の途中、横にいたアメリカ人タブラ奏者に「ヒロ(U-zhaanのこと)を知ってるか?」と聞かれた。「もちろん知ってるよ、友達だよ」「彼は天才だ。twitterの本も出したんだろ?」「その本は僕がプッシュしたんだよ」そのやりとりを横で聞いていたクリシュナ・モハン・バットまでが「ヒロのことかい? 彼はすばらしいよ」と言い出した。U-zhaan、ついにインドでも知られ始めたんだ!? スゴイなあ。
 夜が更けるにつれ、気温がどんどん下がっていく。5度くらいまで下がっていそうだ。12時過ぎまで古典音楽オタクたちの話に付き合ったが、ビールを飲み過ぎた。それに、ちょっと寒くてこれ以上いられないので、まだ宴はたけなわながら僕は先に引き上げた。

by salamunagami | 2012-03-12 00:37 | エキゾ旅行

 

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