2.28 Tue. Pt.2 Badar Ali Khan's Qawalli Party

c0008520_1943968.jpg2月28日火曜 その2
バダル・アリー・ハーンのカウワーリー

ホテルに戻り、荷物を片付けていると、6時過ぎに今度はカウワーリー歌手バダル・アリー・ハーンと彼の兄弟たちが4人で村山先生のところに遊びに来た。来日公演のためのビザの取得方法の打ち合わせなのだ。彼らは今週は今晩だけ結婚式会場で公演を行い、あとは公演なしとのことなので、急遽今夜の公演を見に行くことにする。
 

c0008520_19271116.jpg7時半にホテルから二台のオートリキシャで出発。二台に7人は乗らないだろうと思っていたら、メンバーがリキシャを運転している。リキシャ自体を借りてきていたのだ。
 20分ほど庶民的なエリアに入りこみ、街灯が暗い一角になにやら賑やかな場所がある。庶民的な結婚式会場らしい。一階には大きなキッチンがあり、なにやら料理を作っている。二階に上ると、奥にステージがあり、床には白い布が敷かれている。靴をぬいで座り込むようだ。
 女性は二階ではなく更に上の三階に専用スペースがあり、ゆりこは一人そちらに連れていかれる。イスラム教国のこうした催しものでは男性と女性が完全に隔離されることが多く、たいていの場合、外国人女性は男性扱いされるのだが、ここでは女性は女性ということらしい。
着いてみるとカウワーリーの公演の前にナートというイスラーム教のありがたいお経を詠む演目が最初に行われ、次が食事、そしてカウワーリーという順番らしい。まあラートを生で聴く機会もなかなかないので、良い経験だ。8時ちょうどにあごひげに正装の集団がステージに座り込み、コーランの一節を詠むことからラートは始まる。一つの曲(というかお経? 講談?)ごとに詠み手が交代する。真っ白なあごひげを伸ばした老人から、まだ声変わり前の少年まで十数名がステージに上っていて、次々にそれぞれのお経を詠む。
 9時前に階下から人がドバっと集まってきた。その中には緑と白の正装を来た、ピール(聖者)さま、サイード・アッラーウッディーン・ギーラーニー氏の姿が目立つ。ナートが盛り上がると、正装のオッサンたちが少額5~10ルピーを100枚、200枚と集めた札束を花びらのように宙に投げ散らかす。聖者の手を通り、浄化されたお布施なのだ。村山先生や野上君のビデオで何度も見てきた光景を目の前にする。

c0008520_1943418.jpgナートは次々と歌手が入れ替わり、中にはヒューマンビートボックスのようなリズムをつける歌い手もいるだが、声だけなので、さすがに二時間を過ぎると飽きてきた。バダル・アリーの弟、バハドゥルに呼ばれ、階下に降りると、バダルたちも下で手持ちぶさたにしていた。主催者もラートが長すぎると怒り始めている。一時間くらいの予定だったらしい。そこで質素なダールとナーン、コーラを夕飯としていただく。パキスタンに来てからずっとそれなりに豪華な食事ばかりしてきたので、こうした庶民的な料理は初めて食べた。ダールはインドのものほど凝ってはいない。レンズ豆をターメリックとカイエンヌを加えてドロドロになるまで煮たものだ。
 一方、ナーンにはこだわりがあるらしく、バダルたちは「ガラム、ナーン!」などと頼み、熱々のナーンを買いに行かせている。ナーンには表面に白ごまを振られ、格子状の切れ込みが入っている。トルコやシリアのナーンにそっくりだ。
 結局ナートが終わったのは11時過ぎ。3時間も歌っていた。しかも後半はカウワーリーの有名曲ばかりが続いた。タブラや手拍子なしで歌ってもバダルたちに負けてしまうだろうに。それだけ今夜はお布施が出たということかもしれない。

c0008520_19265657.jpg二階では食事が振る舞われ、12時過ぎにバダルたちがステージに登場。まずインストでイントロ、続いてジャパニソング「幸せなら手を叩こう」のインスト版を軽く演奏する。だが、まだピールが席に戻ってきていないので、一旦休憩。周りには子供や大人までいつのまにかフロアが埋まっている。ゆりこは階上で女性たちだけで食事をいただき、掌にメヘンディーまで施されて、一人男性だけのフロアに戻ってきた。他の女性達は別の場所に行ってしまったようだ。カウワーリーは男性だけの楽しみということか?

c0008520_21414214.jpg五分ほどしてピールが現れ、カウワーリーがスタート。一曲目はおなじみ「アッラー・フー」! ヌスラットの十八番として知られるこの曲、バダル・アリーたちもヌスラットのバージョンに忠実ながらも、別の歌詞を加え、少々メロディーも付け加え、彼らなりにドラマティックに作っている。しかし、そんな細かいわざなどどうでもよくなるほど、手拍子の倍音、タブラのグルーヴ、そしてなにより脂が乗りまくった31歳の巨漢バダル・アリーの歌声とアドリブが素晴らしい。歌い始めてしばらくすると、まだ一曲目にもかかわらず、ピールが立ち上がり、最前列までやってきて、札束の花びらをまき散らす。その際、今夜のメインゲストとされた、僕達三人のジャパニもピールに呼び出され、頭を垂れて、その上にピールと彼の周りのオッサンたちが札束を僕達の頭の上でまき散らす。ひとかたまりが200枚くらいだから、三人に取り込まれて600枚の札が僕達の頭の上で舞っている。

c0008520_1927669.jpgアッラー・フーの後の曲の解説は村山先生が後ほどfacebook上で行ってくれる予定。一曲ごとに山があり、パワフルで、次第に観客たちが興奮していく。その度にピールたちが新たな札束をばらまき、それを札集め係りの若い衆が寄せ集め、再び200枚ほどの束にして回収している。寄進者は1000ルピーなどの大きな額の札をその場で細かい札の束と両替し、その札束をピールに渡すと、ピールが立ち上がって、カウワールたちの頭の上や、僕達のような参加者の頭の上で撒く。それを集めてカウワール達の収入にするのだ。

c0008520_21414361.jpg1時間半をすぎて、これまた有名曲「シャーバーズ・カランダル」を歌い出すと、ピール達が撒いた札の上でオッサンが一人横になって暴れ出した。トランスに入るか、トランスに入ろうとしているのか? 札の上でトランスに入るのだから、楽しいには違いない。ピールと周辺の人達にたしなめられ、少しは大人しくなるが、それでも床の上でグルグルと回り続けている。
 次の曲では、10年前の日本のトランス・レイヴ・パーティーで問題になった「ギャル男たち」を思い出すやたらと粗暴なダンスを少年たちが踊り出し、周りの大人は手をつないで輪を作り、少年たちを輪の中だけで踊らせている。

c0008520_19265120.jpgカウワールたちは預言者や聖者を讃える歌を延々とパワフルに歌い続け、その強力なリズムにあわせて、現世の成功の証であるお札をバラバラとまき、そのお札の上で我を忘れて踊り狂い、転がり続ける。大人も子供も(ただ、ここには女性は入れないが)。それを聖者が見守っている。この現世においては非常に自虐的な行為であるが、そこに宗教的法悦が生まれてしまう。

c0008520_19271099.jpgバダル・アリーはステージの上で立ち上がり、手にマイクを握り、絶叫し、周りの手拍子とコーラスの楽士たちも全身汗まみれになって手を叩き歌い続けている。二時間があっという間。彼らが始まるまでの三時間待たされたこと、その段階で疲れきっていたことなど忘れてしまうパワーが彼らの歌と音楽にはあった。僕は20年前のwomad横浜でのヌスラット・ファテー・アリー・ハーンをはじめ、インドのダルガーや各国のワールドミュージックフェスティバル、そして日本への来日公演などで何度もカウワーリーを見て、聴いてきた。しかし、現地のコミュニティーにおいて、プライベートな場所で、歌われるカウワーリーがこれほどスピリチャルで、ドラマティックだったとは全然知らなかった。ヌスラットがもてはやされた頃、カウワーリーはイスラーム教版のゴスペルと形容されたが、まさにその通り。

c0008520_1927521.jpg3月22日に行われるバダル・アリー・ハーンの東京公演が、現地での音楽体験のうちの多くの要素を持って来られるかはわからないが、彼らは初めての日本公演に最高のカウワーリーを聴かせてくれることを約束してくれた。
 2時過ぎに終了すると、周りにいたオヤジやアニキたちが、じぶんの写真を撮ってくれと僕に話しかけてくる。そこで30名ほどのイイ顔写真を撮った。僕も楽しいし、あちらも喜んでいる。カメラをしまうため、バックパックとジャケットを手元に寄せると、外側にくくりつけていたMP3レコーダーがなくなっていた。いや、実のところいつか無くなるんじゃないかと思っていたんだ。バダルの弟にその旨伝えると、その場でアナウンスしてくれて、参加者全員がこの盗難事件を知り、その途端に普段から素行の悪いガキが「お前がやったんだろう!」とみんなから叱責を受け、泣きながら、僕のところに来て、「僕はやってません!」と繰り返すが、周りの大人たちに相手にされず、怒られている。

c0008520_21455520.jpgカウワーリーを通じてコミュニティーの一体感を確認する儀式なのに、不用心な僕のせいで、水を差してしまった。いくら外部の人間がいないとはいえ、もうちょっと荷物に用心するべきだった。とは言え、盗難は常に僕の旅について回ってきた。フランス留学中は自転車を盗まれ、モロッコでは路上でGショック強奪、イランでは長距離バスの中で、アフガニスタン難民にカンゴールのベレー帽とcontaxのカメラを盗まれた。イスタンブールでは妻が財布をすられた。チュニジアでもカンゴールのベレー帽が無くなっていた。最近では去年のモロッコ・エッサウィラの宿で妻がお気に入りのペンダントを掃除の姉ちゃんに盗まれている。なので旅先での盗難は一種の通過儀礼というか、税金のようなものだと思っている。「サラーム」という名前を使っている使用料とも言える。それが今回はちょっと値段のはるEdirolのMP3レコーダーだった。しかし、あんなもの盗んだってどうにもならんだろうに。MP3レコーダーなんて意味わからないだろうに。携帯やカメラじゃないんだし。
 パキスタンは会う人誰もが親切で、イスラーム的な義理人情に富んでいるが、その一方で貧しい国なのだ。不用意に荷物を置きっぱなしにしている僕のほうが悪いのだ。
 バダル・アリーたちは僕に向かって「申し訳ない!」と何度も繰り返してくれるが、「大丈夫だ。神はいつも見ているから」と答える。彼らのリキシャに乗ってホテルに戻ると午前3時だった。盗難にはあったが、カウワーリーの興奮のほうが何倍も強い!
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by salamunagami | 2012-03-02 19:49 | エキゾ旅行  

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